「マーケティングに必要なことは信頼」寄付型メディアを推進する NPO法人グリーンズ 植原正太郎氏

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Webマーケティング総合サイト『ferret』と、総合転職情報サイト『マイナビ転職』が協同で立ち上げた、未来の若手マーケターを応援するサイト「Marketer’s Story(マーケターズ ストーリー)」。

第10回目は、Webマガジン「greenz.jp」を運営するNPO法人グリーンズで活動する植原正太郎氏にご登場いただきました。greenz.jpは2006年に創刊。「一人ひとりが『ほしい未来』をつくる、持続可能な社会」を目指して活動。読者からの寄付で運営するという、日本では珍しいメディアです。植原さんはなぜgreenz.jpを選択したのか、そして現在の働き方や考え方、そして独特なマーケティング観についてお話を伺いました。

ブラインドサッカーのインターンでソーシャルメディアの影響力を実感した

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◆ferret編集部(以下、ferret) まず、植原さんの経歴をお聞かせください。

◆植原正太郎氏(以下、植原氏) 大学時代は理工学部で、数学や統計を専門に勉強していました。しかし、全然おもしろくなくて(笑)。しかも留年して途方にくれていたときに、社会課題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」というものが一部でブームになっていて、それがかっこいいなと思ったんです。

ただビジネスをするだけでなく、社会課題を解決して世の中をよくしていくという働き方があるんだということに驚いて。その分野で活動してみたいなと思いました。

その後、日本ブラインドサッカー協会でインターンを始めて、広報やマーケティング業務を担当していました。当時TwitterやUstreamが流行り始めた時期で、国内のブラインドサッカーの試合をUstreamで中継しながら、Twitterで実況するということをやり始めたら、見た目がおもしろいというのが結構話題になりまして。イギリスで開催された国際大会にも現地取材に行かせていただいたりしていました。

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▲ブラインドサッカーを取材している時の植原氏

ブラインドサッカーの情報発信をして、知ってくれる人やファンが増えたんです。そのなかで特にうれしかったのが、たまたまサッカーファンの人がUstreamでブラインドサッカーの試合を見て衝撃を受けて、チームの練習に参加してくれるようになったんです。そこから、どんどんサポーターのようになっていって、最終的にチームの立ち上げにも関わるような人が生まれていったことですね。

ブラインドサッカーってマイナーなスポーツなんですけど、おもしろくて素晴らしいコンテンツなんです。時流を見つつ、人々に伝えるための努力をしたり、適切なチャネルを選択すると、共感してくれる人がたくさん生まれるんだなという実感がありました。

また、こういった広報活動って、以前は新聞やテレビといったマスメディアに取り上げられなければいけないという状況だったのが、ソーシャルメディアが生まれたことで自分たちで積極的に情報を発信していけるという変化は大きかったなと思います。

それが原体験となって、ソーシャルメディアなどのWebを媒介として、何かを伝えていくということがおもしろいと感じて、自分でブログを始めたりしました。その学生時代のブログをきっかけに、グリーンズから声をかけてもらって、インターンのような形で記事を書くようになりました。

読者からの「寄付」で運営する新しいメディアの形

◆ferret 学生時代からグリーンズで活動されていたんですね。

◆植原氏 はい、学生ライターとして「greenz.jp」で記事を書かせてもらっていました。他にもグリーンズが開催するイベントに参加させてもらう中で、多種多様な人が集まるメディアの面白さに感激していました。

ただし、当時のグリーンズには新卒採用枠はなかったので就職しませんでした。自分の強みを磨くためにソーシャルメディアやマーケティングが学べるところで働きたいなと思って、トライバルメディアハウスに就職して、2年半ほど勤めました。

トライバルメディアハウスで働いているうちに、greenz.jpの新しい取り組みとして「greenz people」という、読者から寄付を募るという取り組みが始まりました。国内にはあまり事例がない「寄付型メディア」をつくるチャレンジです。

ただし、当時はまだgreenz peopleの専任担当者がいなかったんです。ただ記事を書くだけじゃなくて、読者とのコミュニケーションやマーケティング的な視点が必要になったときに「前にグリーンズに関わってた植原がいいんじゃないか」ということで声をかけていただいたんです。それで、2014年9月からグリーンズにスタッフとして入るということになりました。

前社で2年半、グリーンズに来て2年半。ちょうど社会人5年目が終わるという感じです。

◆ferret 寄付型メディアとはどのような仕組みなのでしょうか。

◆植原氏 通常のWebメディアは、toB向けには記事広告やバナー広告などでマネタイズをし、toC向けにはコンテンツ課金やEC機能でマネタイズを行いますよね。

グリーンズでは、「ほしい未来は、つくろう。」という価値観のもと、Webメディアを運営しています。世の中の社会課題を誰かに任せっきりにするのではなく、一人ひとりが暮らしの中でアプローチしたり、みんなで楽しく解決したり。そのようなグリーンズの考え方に共感してくれたり、参加してくれる読者がたくさんいてくださるので、そんなみなさん一人ひとりに支えてもらってメディアが運営できれば理想だという思いから「greenz people」という会員制度をはじめました。greenz peopleのみなさんからは月1000円の寄付会費をいただき、その原資をもとに記事制作をしています。具体的にいえばライターの原稿料、取材費、校正費に寄付が充てられています。現在は800名を超える読者のみなさんに支えていただいています。

もちろん寄付会費以外にも、企業や行政とも素晴らしい連載を一緒に作っていて、toB事業として成立しています。しかし、それとは別に、読者の方々に支えてもらえれば、持続的に、本当にメディアとして実現したいことができる。そのために1,000人、2,000人の読者に支えられるメディアづくりに地道にチャレンジしているという感じです。

グロースハッカーであり、コミュニティマネージャーでもある

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◆ferret 植原さんのミッションは、greenz peopleの会員を増やしていくということなのでしょうか。

◆植原氏 はい、それもひとつの大きな約目です。しかし、ただ寄付をいただければいいという訳だけではなく、グリーンズのスローガンである「ほしい未来は、つくろう。」という意志のもとに、社会をつくるアクションをしている人を増やしていくことが、僕たちのミッションです。

greenz.jpという無料で読めるメディアにわざわざ月1,000円の寄付をしていただける読者はおもしろい方ばかりなんです。そういう読者同士をつなげることで、なにかコラボレーションが生まれたり、困ったときにお互いに助け合えるようなコミュニティを作ることができれば、「ほしい未来」をつくる人たちが増えていくはずです。

寄付をいただいてメディア運営をするだけではなく、greenz peopleの方たちの活動をサポートするところもやっているという感じですね。

◆ferret 集める、育てる、活性化するということですね。

◆植原氏 いわゆるグロースハッカーみたいなところもあれば、コミュニティマネージャーのハイブリッドのような役割だと思っています。

「寄付」はコミュニティへの共感の証

◆ferret 寄付型という珍しい取り組みですが、難しいなと思うことはありますか?

◆植原氏 常に難しいんですけど、特に寄付型メディアというところでずっと悩み続けてきたことがあります。それは、「寄付」という言葉のイメージです。

寄付と聞くと、途上国の子どもたちを助けるため、困っている人をサポートするためにお金を使うという一般的なイメージがありますよね。

だけどグリーンズは、直接的に誰かを助けるという取り組みはしていません。さまざまな地域で活動している人たちをメディアを通じて発信して、彼らに新しい仲間を見つけたり、協力者ができたりということを目指す、いわゆる中間支援的な団体なんです。

たとえば、仮にグリーンズが「途上国支援をしていて、月1,000円で子ども一人助けられます」というメッセージが出せるのであれば短期的には寄付を募りやすいと思うんですが、現状のグリーンズではいただいた寄付を取材費や原稿料に活用し、記事をきっかけに取材したプロジェクトが世の中に知られて、社会がが少しずついい方向に向かっていくという、回りくどいやり方なんです。その伝え方がすごく難しい。

greenz peopleでは会員の方に年2冊、感謝の気持ちを込めて特典の書籍を作ってお届けしています僕がグリーンズに入りたての頃は「この本がもらえるから会員にならない?」みたいな、短期的で安直なメッセージしか発信できませんでした。

それで会員になってくださるもいるんですけど、greenz peopleは読者特典が目的ではないのでしっくりきていなくて。やはりグリーンズに共感し、グリーンズを信頼してもらって参加してもらうということが、一番やりたいことだなと思っています。丁寧なコミュニケーションをずっと模索して、ようやく見えてきたというところですね。

最近では、greenz peopleの皆さんのつながりを生み出したり、活動をサポートするためのコミュニティへの参加費、という説明をしています。

「ほしい未来をつくる仲間が得られる」というのが、一番しっくりくるなと感じていますし、本質的だなと思っています。

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▲greenz peopleの一部のメンバーと植原氏

◆ferret とても魅力的なコミュニテイが形成されてそうですね。

◆植原氏 会員の方からお話を聞くなかで印象に残っているのは、社会課題とかソーシャルビジネスなどに関心があったけれども、どうしていいのかわからずモヤモヤしていたという人が「自分のやりたいことはこういうことだったんだ」と気づいたということですね。

また、Web上だけではなく、グリーンズが発刊している書籍が全国の書店に並ぶことで、グリーンズの目指したい世界観の認知が広まってきたという実感があります。

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▲greenzが発刊している書籍

そういう意味では、さまざまな媒体を通して、メディアや団体の思いをわかりやすく伝えるということや、ちゃんと理解してもらえるメッセージを考えるということが、大事なことだなと改めて思っています。

PV数は追わない。「読了数」を指標に

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◆ferret greenz peopleは、寄付というよりも仲間になるという意味合いが強いと思います。通常の企業やメディアでも、ファンづくりや仲間づくりには予算を使って取り組んでいますが、PVやコンバージョンをといったわかりやすいKPIに偏りがちで、うまくいっているところはそれほど多くないと思います。

◆植原氏 そうですね。実のところ、グリーンズはPVやシェア数などを全然追っていないんです。最近greenz.jpをリニューアルしたのですが、通常ならツイート数やシェア数などを表示する場所に「読了数」という数字を出しています。

「読了数」は、記事を開いただけではカウントされず、ページの最下部までスクロールされたらカウントされるというもの。ほんとうにきちんと読んでもらいたいと思っているので、読了数を表示させています。

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▲日付の左にある数値が「読了数」を表す

あとは、イベントですね。2006年にWebマガジンを始めて、2007年から継続的に「green drinks Tokyo」というイベントを行っています。メディアのつくり手と読者が、ずっと顔の見える関係性でいられるということが重要だと思っているのです。

読者と編集部が出会ったり、読者同士のつながりをつくったりということを、メディア運営と同じくらい大事にするという文化がグリーンズにはずっとあります。そうなると、ただのメディアではなくて、友だちのような関係が築けるコミュニティになれるのが大きいなと思っています

グリーンズのスタッフもイベントで出会った読者の皆さんとは友だちになるし、取材先は編集スタッフやライターがすでにつながりのある人に限っています。いきなり取材依頼書を送ってお願いするというのはほとんどなくて、人間関係のなかでメディアを運営しています。その結果、広い意味での「ファン」が増えているのかなとも思いますね。

でも、グリーンズの目的はファンを増やすことではなくて、自分でアクションを起こせる人を増やしていくところをすごく大事にしていますね。

コミュニティは「仲間」

◆ferret そのスタンスを保つために注意していることはありますか?

◆植原氏 「お客様扱いしない」という哲学があります。greenz peopleの方は、月1,000円のお金をいただいているお客様という見方もできるんですが、僕自身もgreenz peopleだったりするので、いい意味で仲間として見ています。

メールなどで連絡をするときも、基本的には「●●様」とは書かず「●●さん」ですし、文面も「こんにちは」から始まって、いわゆるテンプレート的なメールは送らないといったことを気にかけています。細かな話ですけど、友達からもらったらうれしいなと思うメールを送りたいですね。

そんな理想はありつつ、顔と名前を覚えるのに限界があって(笑)。これが難しいんですよね……。

僕がとあるイベントでgreenz peopleになりませんかと誘って会員になっていただいた方がいます。そのときはもちろん覚えているんですけど、1年後くらいに別のイベントに遊びにきていただいたときに、全然覚えられていなかったんです。

ピープルになっていただいて感謝しなければいけないのに、気づかずに「はじめまして」みたいなことを言っちゃうみたいな。

人間関係を大切にしたいと思う一方で、自分の小さな脳みそにも限界があるということを感じています。今後も絶対出てくる問題なので心配です。笑

細い話ですけど、そういうことをちゃんと丁寧にできる人になりたいと思っています。そのためにはどうしたらいいのか、知りたいですね。

信頼してもらうことこそがマーケティング

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◆ferret 植原さんはマーケティングというものをどう考えていますか?

◆植原氏 一般的な話で言えば「モノを買ってもらうこと」だと思います。企業がモノを買ってもらうために、商品を企画し、どうやって売るのか考えることがマーケティング。でも、世の中には買い手の気持ちが置いてけぼりの、売り手側の一方的なメッセージが溢れています。

グリーンズ的な観点でマーケティングを捉えるならば、それは「信頼してもらうこと」と言えるかもしれません。僕たちが目指したい世界観をきちんとコンテンツに変換して、届けたい相手にちゃんと届ける。その上で共感し、信頼してもらう。信頼というのは一方的なメッセージではつくりえません。しかし、丁寧に伝え、信頼してもらえれば、グリーンズの仲間になってくれているということだと思います。これからも、そういう関係をひとつずつ、つくっていきたいですね。

Marketer’s Story Interviewee

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NPO法人グリーンズ 植原正太郎

1988年仙台生まれ、転勤族育ち。慶應義塾大学理工学部卒業後、新卒でWEBマーケティングコンサル会社『トライバルメディアハウス』に入社。アナリストとして、国内外のデジタルマーケティングに関する最先端の動向の調査や分析に2年半従事する。その後、WEBマガジン「greenz.jp」を運営する『NPO法人グリーンズ』に転職。寄付読者制度「greenz people」の事業を担当し、日本初の寄付型メディアづくりに挑戦中。

greenz.jp http://greenz.jp/

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